『図書館の大魔術師』考察ブログ

~しがないつぶやき【Z:sub】~

【感想 / 考察】『図書館の大魔術師』第39話「百年の孤独(前編)」

この記事は作品の重大なネタバレを含みます。お読みになるかたはその点を充分ご承知おきください。

※本文内では、作中の用語を遠慮なく多用しています。

 

■ 感想:第39話「百年の孤独(前編)」

8/5(金)に更新された第39話は、これまでのさまざまな重要な伏線が回収されたと同時に、この先の壮大な展開を予感させる回となった。しかも内容的にはまだひと話の前半であるため、劇中で世界を救ったとされている英雄たちの“真実”が、後半ではより明確になってくることだろう。

まずは、いち読者として注目ポイントの感想を述べていきたい。

 

□ サブタイトルが現実作品と同一

今回のサブタイトルは「百年の孤独」。ノーベル文学賞を受賞した作家ガルシア=マルケスの著書と同一である。

『図書館の大魔術師』各話のサブタイトルはこれまで、現実世界の著名な書籍タイトルをもじったものになっているのだが、そのものずばりが使用されることなかった。何のもじりも加えていないのは、筆者の知る限りこれが初めてである。これがどういう意図なのかについては、次回40話以降も同様の場合、別途考察していきたい。

 

□ ウイラの正体についての示唆

現在は主人公シオのペット、しかしてその実体は強力な精霊であったということは、前回までに明らかにされていた。今話では新たに、かつてカドー族の「仮面帝国」による支配を支えた最凶の魔術書『大三幻』で使役されていた土・水・雷の三精霊のうちの一角を占めていたのが、他ならぬウイラであるらしいことが示唆されている。筆者としては、今回の騒動を引き起こした仮面の集団の目的が、『大三幻』による支配の復活にあるとにらんでいるので、今回シルエットで描かれた残り2体の精霊の行方も気になるところである。

ところで、劇中で砂漠の魔術師が「口からマナを注がない限り問題ない(封印は解けない)」と言っているが、シオが親愛を示すために口づけをしたことで、ウイラにかけられた魔術を(無意識に)解いていたことが、今回で確定した。

 

□ 内通者の正体は

これまで、例の仮面の持ち主の同期生はテペル=フラカンかのように描写されていたが、やはりこれは衣装棚を共有していただけのミスリードで、実は同室のキラハ=キャムナンが真の所有者であることが明らかになった。実際これまで、テペルの同室が誰なのかは明確に描かれておらず、第25話でテペルが体操をしているときも布団にもぐっていて顔はわからないままで、しゃべり方も特徴がなかった(第6巻p.17)。

それを踏まえた上で振り返ってみると、1か所だけキラハの本性がわかりそうな箇所がある。第4巻p.178で、中央図書館総代 コマコ=カウリケの姿を見つめる目が非常に鋭く、他の登場シーンでのテンションとは明らかに異なるのである。直前のコマでサラ=セイ=ソンが緊張で背筋を伸ばしているために、あたかも表情を引き締めているかのように見せているのが、描写として非常に巧みである。

また、38話でメット=ナナウはサラ=セイ=ソンに対し、お得意の陰謀論を披露するわけだが、それを隣の同期から吹き込まれたと言っている。同じ机の同期生はヤコだが、通路を挟んだ反対隣は実はキラハである。第4巻p.103でイシュトア先生の影になって隠れているが、メットの右斜めうしろがシオであることから、その前の席、つまりメットの右隣はキラハであることが推測できる。そのあたりもすべて作者の計算ずくかと思うと恐れ入る。ただし、内通者がキラハだけかどうかまでは、現時点では断定できない。

 

□ さすが主人公、よくやった

第1巻からずっと、セドナから借りた本を返すことはシオにとって非常に重要な目的のひとつだったので、前話で人造精霊によって本が持ち去られたとき、本を返すことができなくなったシオの悲しみは如何ばかりかと胸が痛くなった。と同時に、いや実は机の引き出しに仕舞っておいたのはダミーで、本物はどこか床下にでも隠しているんじゃなかろうか、と勘ぐっていたが、そこはやはり主人公、物語が続けられるような行動をきちんと取っている。

だがあえて言おう。きみは夜神月か。

しかし、ダミーにした本『母の味方 姑を黙らせる今日の献立20選!』って、シオが自分で買った本なのだろうか・・・・・・そうだろうな。たとえ本を守るためとはいえ、図書館で借りた本を囮にはしないだろうから。

 

□ 本の内容と世界の真実

ニガヨモギの使者という厄災から世界を救った七大魔術師、それが実は、世界を救うために戦ったのは1人だけで、あとの6人は戦いから逃げてきたというのが真実だ、というのが、今回の騒動で奪われそうになった本の内容である、とのことである。物語の詳細は次回更新の後半か、次話以降のこととなるが、シオは一度、本の内容の言及したことがある。

「悪用しようと思えば・・・・・・皆が必死に創り上げてきたこの社会(せかい)を破壊することができる・・・・・・!」

入館式の前夜、見習いの寮の図書広間で、シオはセドナから借りた本と同様のことが書かれた本を探している(第4巻p.160)。その際の挿絵が七大魔術師によるニガヨモギの使者討伐の場面であることから、シオの借りている本の内容もそのあたりの事情に関する本であることは推測できていた。本編のナレーションで、この本には世界を滅ぼす力がある、とされており、上記のシオのセリフと、今話で明らかになった、大魔術師たちが実は世界を救ってはいないという不都合な真実なのである。

それらから、第4巻p.228のセドナの呼称「世界を滅ぼす魔王」とは、物理的に世界を焼き払うとかいったことではなく、大陸の民にとって心の拠り所となるはずの「大魔術師伝説」が虚構であると明らかにされることによって、現体制を瓦解させ、仮初の平和が崩壊する引き金に、セドナがなりうることを示唆している。そして、おそらくその崩壊は、ラコタ族の暦『アレマナカ』が終わるのと、民族大戦の停戦からちょうど100年になるのが、どちらも物語上の5年後であることから、そのあたりであると推測できる。

 

■ 物語はようやく中盤か

『図書館の大魔術師』は本編中にさまざまな謎が散りばめられていて、まだまだ読者に明らかにされていない情報が多々ある。それら個々の謎については、それぞれ個別に考察記事を書いていくが、ストーリーの本筋部分は、ようやく中盤に差し掛かった感がある。

それでも、まだ図書館の大魔術師 2代目候補シンシア=ロウ=テイはシオ以外の同期見習いと顔も合わせていないし、1年間の見習い期間もまだ四半分が過ぎたところ(第34話)である。入館時に比べて人間関係は明らかに改善しているので、これからの各々の成長は、いち読者として非常に楽しみなところである。

 

中編へつづく。⬇

shiuchisan.hatenablog.jp