『図書館の大魔術師』考察ブログ

~しがないつぶやき【Z:sub】~

【感想 / 考察】『図書館の大魔術師』第39話「百年の孤独(中編)」

この記事は作品の重大なネタバレを含みます。お読みになるかたはその点を充分ご承知おきください。

※本文内では、作中の用語を遠慮なく多用しています。

 

■ 感想:第39話「百年の孤独(中編)」

9/7(水)に最新話が公開された。前回が前編で32ページもあったものだから、今回は後編になるのかと思いきやまさかの中編。書籍化した際、第39話はどうやら長い話になるらしい。もっとも、筆者が調べてみたところ、書籍化されている各話のなかで現状もっともページ数が多いのは第26話「けりたい顔面」で88ページ、その次が第13話「少年と老婆」で86ページもあるので、39話だけが特別に多いというわけでもない。

 

今回の「中編」の要点を整理すると次のようになる。

  • レオウの正体についてのヒント
  • アレマナカの世界終末論
  • ラコタ族の新世代指導者クラン=ブルゥ

とくに、謎の仮面集団のリーダーであるらしいレオウについて示唆されている事柄が多く、愛読者としては考察のしがいがある話となった。七大魔術師についての物語が進展するものと思っていた側からすると、少しく肩透かしをくらった感は否めなかったのだが、それは来月の「後編」に期待しよう。

 

 

■ 考察①:レオウは仮面帝国の後継者なのか

今話の描写から、第34話で御簾内にいた仮面集団のリーダーは、同じ宙マナ使いであることからも、レオウがその人であることがほぼ確定した。アフツァックに混乱を招き入れた張本人でありながら、その能力や行動力を見込んでシオを仲間に勧誘したレオウだが、その発言等から考えられるのは、カドー族の“仮面帝国”再興を企図しているのではないか、ということである。

 

□ 仮面の額にある紋章

レオウが率いているらしい謎の仮面集団。彼らが被っている仮面の額にある紋章は、真ん中の目のようなマークを3つの楕円が交差して囲んでいるという構造である。

 

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第39話より。

 

そこから、この楕円3つが表すものが、史上最凶の魔術書“大三幻”だと仮定するならば、レオウの集団の目的は、魔術書の力を利用した仮面帝国の再興であると考えられる。ただし、今話のレオウの「越えなきゃならねぇ帝国(くに)」という発言や、集団の構成員、そして混血のシオを勧誘したことからも、かつての仮面帝国のようにカドー族のみによる支配とは一線を画しているようである。

 

ウイラがかつて大三幻に封じられていた精霊のうちの1体だと判明したからには、大三幻をすべて揃えられるはずはないものの、3冊のうち少なくとも1冊は彼らの手中にあるのではないか。というのも、第13話で中級レベルの人造精霊が暴れた際に、首謀者がもっと大きな戦力を持っている可能性について述べられており、それが大三幻のうちの1冊だとすれば、一応の辻褄は合う。

 

□ 帝国の継承者を名乗る資格

おそらくは今後の物語の展開で描かれることになるのだろうが、そもそも仮面帝国の皇帝位はどのように継承されてきたのだろうか。

通常の考え方からすれば、帝位は血統によって受け継がれる。ちょくちょく出てくる「すべてオレのもの」といったレオウの物言いも、彼が仮面帝国の帝室の血統を受け継いでいるのなら、ごく自然な発言である。また同時に、帝国の皇帝位を継ぐには、強力な魔術師であることも条件のひとつだったのではないか。これはレオウが魔術師としての自身の強力さをことさらに強調する理由の根拠でもある。

かつての仮面帝国は大三幻に封じられた強力な精霊を使役することで繁栄した。ということは、帝国を率いる皇帝は、第2代皇帝ジェーン=セイ=テンが大魔術師を名乗ったことからも、精霊を使役できるほどの強力な魔術師でなければならない。

劇中で、魔術の根源であるマナは、人の手の加わっていない“自然”に触れていないと発達しないとされている。皇帝位が血統で受け継がれると、次代の指導者はどうしても自然に触れる機会は減っていく。代を重ねるごとにマナが薄れ、もはや大三幻の精霊を使役するに足るだけの力が皇帝から失われたことが、帝国衰退の原因ではないだろうか。だとすれば、レオウが己の強さを主張するのも、自分には大三幻を使うだけの力が備わっていると周囲に納得させる必要があるからだと考えられる。

いずれにしても、レオウは仮面帝国の血統的な継承者であるか、その関係者であり、他者を圧倒するマナ・魔術でそれを自称していると考えられる。

 

どうでもいいが、この仕草(下)を見ると、『それでも街は廻っている』の「めいど!」を連想してしまうのは筆者だけだろうか。

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『それでも街は廻っている』第1巻p.125より

 

■ 考察②:クラン=ブルゥとセドナとの関係

ラコタ族の新世代指導者クラン=ブルゥ。その顔自体は第13話や25話ですでに明らかになっていたが、守護室室長のセドナと同じ姓であることから、2人は姉妹か、そうでなかったとしてもかなり近い親族であることがうかがえる。もっとも、今話の最終コマがセドナの横顔であることから、わざわざ考察するまでもなく、次回の更新話でその点は明らかになる可能性は高い。

クラン=ブルゥと彼女が率いる鮮革党の躍進については、第26話でメット=ナナウが語っている「そこで彼女は〜当選したわけ」という台詞の展開である。

劇中でシオも感じている描写があるが、クランら鮮革党の主張は、アレマナカの長期暦が終わるタイミングにおいて、大陸文明を牽引し続けてきたラコタ族が再び名実共に大陸を制覇すべし、というもので、かつての栄光を取り戻すために現体制を否定するという意味において、仮面帝国の再興を目指すレオウらと考え方の一部は似通っている。

あと、その流れでサラリと語られているが、ラコタ族の“暦の大魔術師”は女性であることと、オウガの「大魔術師様もまだまだ健在」という台詞から、七大魔術師はコマコ以外は事実上引退しているものの、故人はいない(殉職したホピ族の“理の大魔術師”を除く)ということが明らかになった。

 

今回の“中編”は少なめのページ数ながら、今後に向けての示唆に富む展開となった。物語全体の冒頭から言われているとおり、シオが何らかの役割を果たすことになる世界の危機が、どのような方向から訪れるのかについて、読者に示すための布石となっているように思う。

 

後編へつづく。⬇

shiuchisan.hatenablog.jp

 

 

 

 

【まとめと考察】『図書館の大魔術師』舞台設定および世界観

この記事は作品の重大なネタバレを含みます。お読みになるかたはその点を充分ご承知おきください。

※本文内では、作中の用語を遠慮なく多用しています。

 

 

アトラトナン大陸

物語の舞台。

もともといくつかの島に別れていたものが、ある時期に起きた天変地異による地殻変動で合体したことでできた大陸。古来より豊かな大地と多くの民族を育んできた。

その名前は大地母精アトラトナンから取られており、もっとも一般的な呼称。宗教ごとに名称は異なり、ヒューロン族のアシン教では「大世界(アタグフ)」、カドー族の起教では「全堂(ベマ)」と呼ばれる。

 

〈筆者考察〉アトラトナン大陸の全容

灰白色の死という霧によって大陸の周囲が覆われているため、海岸線や島を作中の人物たちが実際に目にすることはない。よって大陸の全容も作中で具体的に描かれることはないのだが、6巻幕間で描かれたトーン第二研究室の挿絵にある地図が、おそらく大陸の全体図である。下画像参照(6巻p.140)。

 

 

ニガヨモギの使者

突如、海から現れ大陸を襲った厄災。詳細は不明。

作中の本の挿絵や演劇等では怪物のように描かれている。

 

灰白色の死

ニガヨモギの使者が討伐されたときに残ったとされる霧のようなもの。これが大陸の沿岸部を覆っているため、今の世代は実物の海を見たことがない(セラーノ族は別)。

人間には有害であるようだが、調査によって霧の中生物の存在が確認されており、それらは「灰白色の住人」と呼ばれている。

 

〈筆者考察〉ニガヨモギの使者の実体

セラーノ族のヨウィーが「これは “人” の問題だから」(第15話)と言っていることから、ニガヨモギの使者とは、実際の怪物や自然災害、その具現化である精霊の暴走などではなく、現実世界でいうところの放射能汚染や公害といったものに近い位置づけである気がする。

第36話で大精霊が都に現れたとき、市民が「ニガヨモギの使者か?」と言っていることから、精霊であるかのような印象を受けるが、都の住人たち、とくに若い世代は実物を見たことがないはずなので、これは作者のミスリードであるように思う。

 

七大魔術師

ニガヨモギの使者を討伐するため、各民族から派遣された優秀な魔術師たち。ニガヨモギの使者討伐後に勃発した民族大戦を停戦させ、各民族の指導者として大陸の政治に重きをなした。停戦から95年経過している劇中では、そのほとんどが半ば引退状態(もしくは故人)。

現在その功績を称えて、中央図書館に像が立てられている。

ちなみに作中では、明らかに七大魔術師をモデルとしたような「七人の魔術師」というボードゲームが存在するのだが、製造元は関係性を否定している。

現在判明している魔術師は以下のとおり。

 

  • 理(ことわり)の大魔術師

氏名不明。隊長。ホピ族。おそらく宙マナ使い。

ニガヨモギの使者討伐時に唯一殉職。

 

  • 圕(としょかん)の大魔術師

コマコ=カウリケ。ヒューロン族。土マナ使い。土マナの魔術を極めたものに与えられる「煉丹術師」の称号を持つ。

ニガヨモギの使者討伐時は13歳で、7人中最年少。

現在の中央図書館を設立、その総代。

七大魔術師の中で唯一の現役。

 

  • 傀(くぐつ)の大魔術師

パーサー。ココパ族。おそらく宙マナ使い(ココパ族は必然的に全員が宙マナ使いであるため)。

1日の大半を寝所で過ごしていて半ば引退状態であり、側近のビレイ=ヴァンポイーズが諸々を代行して支えているとされていた。ところが第39話にて、すでに死亡して数年が経過していることが明かされた。ビレイが魔術でその遺体を操り、存命を演出している。

 

  • 暦(こよみ)の大魔術師

キン。ラコタ族。

最近までラコタ族の政治界に大きな影響力を持っていたが引退。女性。

※「暦」の読み方は「よみ」の可能性もあり。

 

そのほかカドー族、クリーク族、セラーノ族の大魔術師がいるはずだが、まだ詳細は描かれていない。

 

 

民族大戦

大魔術師たちの活躍によってニガヨモギの使者は討伐されたが、その後遺症ともいえる灰白色の死が大陸の多くの土地を覆ってしまい、それによって生活圏を奪われた各民族が大陸の残された土地を争奪することで起きた大規模戦争。その混乱の中で、ヒューロン族によるホピ族の大虐殺も行われた。

ニガヨモギの使者を討伐した大魔術師たちは人々の争いに心を痛め、命がけで協議をおこなった結果(パレナ会議)、各民族間に大きな不満や遺恨を残しつつも、大魔術師たちの人望によって停戦に至った。その停戦条約をパレナ議定書という。

シオが見習いとして過ごす1年は、作中の時間軸において停戦から95年後である。

 

アフツァック

中央図書館の総本部が所在する通称“本の都”。大陸で流通するすべての本はこの街から出荷される。大陸中の本が集まることから研究機関も存在し、学問の都でもある。

100万の人口をかかえる多民族都市であり、特領七民族の各自治区のうち6つの自治区の境界線がアフツァックで交わることから(アフツァックに接していない自治区はおそらくセラーノ自治区)、大陸の事実上の中心地である。

アフツァックの名称は、この土地の創造主の名「アフツァック」が由来で、地平線という意味があり、さらにその元となったのは、タタ湖から都の北側に流れる大河「アフタ河」からきている。

 

 

七古抜典

 アトラトナン大陸の歴史において、その時代の国家や政治体制、民の暮らしに大きな影響を与えた7つの書の総称。影響を与えたという意味で、正の遺産だけでなく負の遺産も含む。それぞれが非常に大きな影響力を持っているので、1つの組織による書の利益の独占やそれに伴う紛争の発生を防ぐために、中央図書館が保管・管理し、一般に公開している。ただし、現在その行方がわからなくなっているものも存在する。

 

  • 樹海創讃文書

製作者:不明

作成年代:不明(1700年前頃)

精霊信仰「司道(マナアクア)」の聖典

大地母精アトラトナンが大陸を創造した伝説の一部が記された粘土板。伝説に関わる書として現在確認されている中でも最古のもの。

中央図書館の紋章にも使われている。

 

  • ネザファパレハの円盤

製作者:ホピ族

作成年代:不明(1400年前頃)

大陸史上、最古の王国である「ホピ王国」の遺跡から発見された。

現代の魔術はこの円盤の研究・解読から始まったとされる。円盤には万物に宿る8つのマナが描かれているが、実在が確認されているものは7つまでで(光・土・水・雷・樹[木]・炎[火]・宙[風])、現在も研究と議論が続いている。

 

  • 大三幻

製作者:カドー族

作成年代:1100年前頃

魔術書の生みの親であるカドー族によって作られた、史上最凶の3冊の魔術書。その実物は誰も見たことがないとされる。

700年にも及ぶ「仮面帝国」の支配は、これらの書に封じられた土・水・雷の三精霊の力によって支えられた。帝国滅亡時にはこの書は使われておらず、何らかの理由で紛失したことが帝国の衰退を招いたと推測されている。

 

  • アレマナカ

製作者:ラコタ

作成年代:758年前

ラコタ族の作成による長期暦。

それまでの“大陽”を元にした単暦から、2つの衛星“対星”を用いた双暦にすることで精度を高めた。閏年を含めて正確に計算されているが、なぜか763年後までで終わっていてその先が存在しない。そのことから、それが世界の終わりを意味しているという終末論が一部でささやかれている。

 

  • 4頁の冒険

製作者:ツネ=シロ

作成年代:391年前

世界で最初に印刷された小説。

金属細工師ツネ=シロが開発した金属活版印刷機によって刷られた。試し刷りのために組まれたものなので、内容そのものは取り留めのない習作だが、これにより、それまで一部の人しか手に入れられなかった「本」を、あらゆる人が手に取れるものに変えた。

 

  • 黒の書

製作者:ルゲイ=ノワール

作成年代:145年前

正式名称『ハウマナイサンの提言』。一般の書籍だが、どの魔術書よりも多くの人を殺した書と言われる。

ホピ族が劣等民族であるということを医学・生物学・民俗・宗教などあらゆる角度から学術的に実証しており、書かれていることのほとんどが根拠のないデタラメであるにも関わらず、のちのヒューロン族によるホピ族大虐殺へとつながる元凶となった。

中央図書館がすべての書を検閲・統轄する「圕法」の生まれるきっかけとなった書で、発行された書は他言語に翻訳されたものも含めてすべて中央図書館が回収・保管しており、閲覧には台帳に署名が必要(閲覧者を記録することを“抽録”といい、圕法で禁止されている行為だが、この書に限っては、その経緯から反対する者はいない)。

 

  • 明日に向かって吼えろ!

製作者:グレイブル=ダ=ヴェルボワ

作成年代:121年前

正式名称『クリーク族による自由のための宣言』。大陸から奴隷制を撤廃させた1枚のチラシ。

ラコタ族に奴隷として扱われていたクリーク族はこれによって立ち上がり、のちに独立、自らの自治区を獲得するに至った。ただし、その過程において、奴隷制に反対する海側ラコタ族と、奴隷制を支持する陸側ラコタ族との間で「海陸戦争」が起こり、現在までラコタ族の中にしこりを残している。

通称は司祭ヴェルボワの有名な演説の一節から取られている。

 

 

【まとめと考察】『図書館の大魔術師』各まとめページへのリンク

の大魔術師』では、この物語独自の世界でストーリーが進行している。

劇中ではその都度、その歴史・世界観・民族・信仰、そのほか組織・団体の構成などについて解説がなされているが、この記事では作中の情報を一括して見られるようにすることを最終目標としたい。

ただし、なにぶん情報量が多いため、実際にはテーマごとにまとめる内容をカテゴリー分けする。この記事そのものは主として各テーマごとの目次と、リンクの集積という扱いとしたい。

 

※これ以降は目次です。各記事が作成でき次第、リンクを追加していきます。

 

■ 舞台設定および世界観

shiuchisan.hatenablog.jp

■ 信仰および魔術

宗教

司道

アシン教

占麓思想

起教

アロム教

魔術

マナ

魔術学園

御三家

 

■ 大陸の民族

ヒューロン族

ハイダ族

ラコタ

海陸戦争

カドー族

仮面帝国

クリーク族

ココパ族

ホピ族

ホピ王国

セラーノ族

 

■ 登場人物および組織・団体・地名

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