『図書館の大魔術師』考察ブログ

~しがないつぶやき【Z:sub】~

静電気体質

季節としての冬は嫌いではないのだが、これだけはどうにかならぬものかと毎シーズン頭を悩ませるものがある。それは、静電気。

 

静電気

 

大学を出て働き始めた頃から、急に静電気が気になりだした。きっと車を運転するようになったからだろう。車を降りてドアを閉めようとするとバチッ、上着を脱げばパチパチ、玄関のドアノブに手をかけてもバチッ。ポリエステル素材の服を重ねて着た日なんぞは、脱いでしばらく放置した服ですら、再び手に取るとパチパチいう始末。

 

ぼくとて何も対策を取らなかったわけではない。静電気防止グッズを買ってポケットに忍ばせていたことだってある。しかし、あの静電気防止グッズは、それを握ったうえで、ドアノブなり車のドアなり金属の部分に器具の先端で触れることによって放電し、指先にバチッと電流が流れることによる痛みを防ぐ、というものであり、いちいち取り出す手間と、持っていることを忘れてしまうこともあって、結局は素手でドアノブを触ってしまってバチバチさせてしまうのである。

 

そういえば、ぼくの母親もたいがいの静電気体質である。預金通帳やクレジットカードの磁気はすぐにダメになる。磁気が読み取れず、ATMから空しく吐き出されてくることなど日常茶飯事であった。最近はクレジットカードもICチップが組み込まれているものが増えて、そういった事例はずいぶんと少なくなったらしいが。

 

 

あるとき、母が地元の百十四銀行でATMを操作すると、例のごとく預金通帳が吐き出されてきた。母は「またか」と思いながらも、特に気に留めず窓口へ向かい、どうやら通帳の磁気がダメになったらしいと説明した。

 

行員の女の子も、そういったトラブルが起こり得ることはマニュアルにあるのであろう。とくに不審な顔もせず、

「かしこまりました。では、今お持ちの通帳をお預かりいたします」

言われて母は、そのやりとりの間ずっと手に持ったままだった通帳を差し出した。すると途端に女の子は不審な顔になり、母と通帳を見比べはじめた。

 

母としては「ああ、この子はまだ銀行に入りたてで、手順というか手続きの全部が頭に入っているわけではないんだろうな。ここでこちらがイライラしたのではだめだ。もう一度、頭から丁寧に説明して、こちらがどうしてほしいのか伝えてあげよう」などと思ったわけである。

 

「いえ、ですからね、私って静電気体質で、銀行の通帳とかクレジットカードとか、磁気がすぐにダメになってしまうんです。今回も『お取り扱いできません』って出てきたのはそのせいだと思うわけで、つまりこの通帳、交換してもらえませんか」

 

つとめて冷静に、丁寧に説明したつもりだったが、どうにも行員の反応が悪い。このままではらちが明かないから、「ちょっと、別の人に代わってもらえません?」と言おうとしたそのとき、女の子がいかにも恐縮しながらといった感じで、おずおずと切り出した。

 

「大変申し訳ありませんが、こちら、『香川銀行』さんのお通帳ですが・・・」

 

いま何と?

差し出された通帳を急いでのぞき込むと、確かにそこには「香川銀行」のロゴが。

そしていま来ているのは百十四銀行

 

静電気で磁気がダメになるとか、それ以前の問題で、単なる母の勘違いであったのだ。他行の通帳をATMに突っ込んだところで「お取り扱いできません」となるのも道理である。

そりゃあ受付の女の子も面食らうよなァ。自信満々で他の銀行の通帳を差し出されてもね。

 

あやうく銀行に迷惑クレーマーと認識されるところだった母は、平謝りしながら通帳を受け取り、そそくさと銀行を立ち去ったのであった。