『図書館の大魔術師』考察ブログ

~しがないつぶやき【Z:sub】~

愛読書レポート ~『ハリー・ポッター』シリーズ(後編)~

(前編からのつづき)

 

 

 

夕食と入浴を済ませたあと、コタツに入ったのが夜の9時ごろである。3月に入ってはいたものの、まだまだ朝晩は冷え込んでいた。カバンを引き寄せ、本を取り出して改めて見てみると、なかなかにひどい状態であった。

 

カバーはあちこち破れてセロテープで補修されていたし、角という角は折れて丸くなっている。ハードカバーの表紙は綴じるときの糸でかろうじてつながっている状態だったし、小口は一度水にでもつけたのかと思うほどブヨブヨになっていて、しおりはとうの昔に千切れてなくなっていた。よほど乱雑に扱われてきたのか、本体は全体的に歪んでいた。

あまりにもな様子に眉間にしわを寄せながらページをめくり、そして読み始めた。

「プリベット通りの住人、ダーズリー夫妻は・・・」

 

あのときの衝撃は忘れない。

登場人物たちの声が聞こえる、動きが見える。行ったこともないのに、ロンドンの雑踏、スコットランドの山々が見えた気がした。これまで、ただただ文字を追うだけの無味乾燥な作業でしかなかった読書が、その瞬間、別世界を体験させてくれるものに変わったのだ。

 

不思議な話だが、ぼくはこの物語を読んだとき、それが初めてではないような気がした。ハリーがダーズリー家の階段下の物置で寝起きしていたことも、マクゴナガル教授が猫に変身できることも、なんだか昔から知ってたような気がした。まるで、幼いころに覚えるほど読んだ物語を、再び開いて読んだかのような感覚である。でもそれはありえない。ハリーの物語は正真正銘、J・K・ローリングの新作である。邦訳の初版が出たとき、ぼくはすでに中学生だった。

 

ふと、肌寒さを感じて顔を上げると、時計の針は午前3時を指していた。それまでの人生で、こんなにも本を読むことに没入したことは一度もなかった。こんなにもページをめくりたい、物語の先が知りたい気持ちになったことはなかった。

 

それが、ぼくと「ハリー・ポッター」シリーズの出会いであった。