■ 「金」のプレイ時間は300時間
パッケージの記載によると、いわゆる第2世代の「金・銀」が発売されたのは1999年となっていますから、ぼくが中1のときですね。このソフトは本当に、アホになるほどやりました。ぼくは「金」を購入しましたが、もう寝ても覚めてもやり続けました。大人になるまでは自分史上最長のプレイ時間数で、たしか312時間であったと記憶しています。
折しも小6の冬から地元でも有名なスパルタ塾に放り込まれ、その予習・復習にかなりの時間を割きつつ、普通に学校にも通って、運動部にも所属して土日も部活をしていたのですから、よくそんなに時間を費やせたものだと我ながら感心します。べつに睡眠時間を削っていたわけでもありませんからね。
この金ver.はめでたく図鑑完成まで到達しました。どういう経緯で手に入れたかは忘れましたが、当時キャンペーン以外ではソフトのバグでしか手に入らなかった「幻」のミュウもいて、全部で250匹でコンプリートしました。中学2年のときのことでした。
■ 「いまなんじじゃ?」
そうこうしているうちに高校受験の年になり、そして高校に上がってからは本を読み始めたため、大学受験も相まって、ゲームに触れない期間が数年続きました。地元の国立大学には無事、合格。前期の合格発表を終えて自宅に帰り着いた、その夕刻に事件は起こりました。
前期入試で合格したため、4月の入学式までまるまるひと月、時間がポッカリと空きました。それまでが受験に追い立てられる日々であったので、3月6日、発表の掲示板の確認から帰り着いたあとの昼食後、さてこれからどうするか、ぼくは思案することとなったのです。
「そうだ、ゲームしよう」
まっさきにゲームが思い浮かばなかったあたり、やはり受験というものは尋常な神経では乗り越えられないものだったのだと1人で納得していたのですが、ともあれ、ありあまる時間をひたすらゲームでつぶすことに話は決まったわけです。
なにしろ時間だけはありましたから、古いゲーム機・ソフトから順に、まずは動作確認からしていくことにしました。ファミリーコンピューター、ディスクシステム、スーファミ、そして64。ぼくの据え置き型ゲーム機の遍歴はそこまでです。決して裕福な家庭で育ったわけではないので、ソフトもそんなに数は持っていませんでしたから、動作確認はサクサク進みました。まる4年のあいだ仕舞い込んで放置していたのですが、予想外にもセーブが残っていて少し驚きました。
据え置き型がひと通り終わったら次はゲームボーイです。ぼくは初代のゲームボーイと、金・銀のときに発売されたゲームボーイカラーを持っていました。そういえば、金・銀のポケモンは初代ゲームボーイでもプレイできたのですけれど、ゲームボーイカラー専用のカセットは結局買わないままになってしまいましたね。これも古いものから順に確認です。
そしてようやく、残すは2本。ポケモンの緑と金だけになりました。緑はきちんとセーブが残っていました。手持ちにLv.100のミュウツーが1匹だけいました。最後に何をしていたのか一向に思い出せないのですが、久々に見たその手持ちの画面だけは、あれから15年以上経つのにいまだに鮮明に覚えています。
ここまで動作確認してきたソフトのセーブがすべて残っていたのに気を良くしたぼくは、最後に「金」のソフトをゲームボーイカラーに差し込みました。その間、電源を入れるまでの短いあいだに、いろいろなことを思い出しました。
先にも言ったとおり、この金ver.は図鑑を完成させただけにとどまらず、それまでに捕まえた色違い(たしかメノクラゲとマダツボミとホーホー)、任天堂の公式戦用に本気で選別・育成したもの複数(当時ぼくはカビゴン使いで、それを主力としてナッシーとマルマインのだいばくはつコンビを従えるというのが常道でした)、そして、友達の友達の友達の知り合いあたりから入手した(ような気がする)ミュウ。そういうのを全部保存してたなァと思いながら、電源を入れました。
すると。
ふつうポケモンはタイトル画面のあと、
「つづきから はじめる」
「さいしょから はじめる」
「せっていを かえる」
というふうに選択肢があって、「つづきから・・・」を選ぶと前回セーブした箇所から再開できるのですが、あまり深く考えずにボタンを連打していたら上の画面が出てきました。
金・銀から時計機能が付いて、ゲーム内に朝・昼・夜の時間と曜日の概念が導入され、時間帯によって出現するポケモンが変わったり、金曜日の夜にだけラプラスが現れるなどの要素が加わりました。その最初の時刻設定をする画面がこれです。
まぁもちろんぼくもですね、これを見た瞬間に最悪の事態は想像したのですが、あまりにも現実を受け入れたくなくて、この画面の意味するところをきわめて楽観的に捉えました。
「そっか。あまりに長いことほうっておいたから、時刻を修正するための画面なんだね」
当時のゲームにそんな気の利いた機能があるわけがないのですが、もう少し茶番にお付き合いください。
つとめて冷静でいるように自分に言い聞かせながら時刻を設定し、おそるおそるAボタンを押していくと・・・
オーキド博士が出てきて、最初の説明を始めるではありませんか!
その瞬間、ぼくが300時間をかけて作り上げたものが、全部なくなってしまったことを理解しました。ぼくは部屋の中でたった1人、いままで発したこともないような悲鳴をあげたのでした。
しかし、事件はここで終わったわけではなかったのです。
(さらにつづく。次回「再会編」)